近野駅改掲示板

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徒労に賭ける その4を更新。

嫁の和服用草履が古くなって、鼻緒が痛くて履けない、というので、草履を見に行った。問題の鼻緒は樹脂製。例によって樹脂製のものは古くなると柔軟性がなくなる。おまけに現物は、表面に割れがみられ、もうどうしようもない状態だ。これがまだ柔らかい状態だと、手で無理矢理広げたりしてなんとかなるみたいだが、こう固くなるとどうしようもない。

呉服屋はちょうど本店を新規に移転したとかで、お披露目会のようなことをしていた。ちょうどいいことに、浅草から履物の職人きていて、いまでいう「アウトレット」ものを現品限りで安く売っていて、台は本革で三万円ちょっと、鼻緒は正絹を無料で、その場で仕上げてくれるという。台は塗装時に異物が一つだけ入ってしまい、正規では五万円はするそうだ。まあ靴としてはだいぶ高値だが、見ただけで量産のきかない、職人が何人もの工程でがかかわるのがわかる。鼻緒だって、一日に何本作れるのだろう?あれが何種類も、いまの日本でいったい年に何本売れるのだろうか。

七十くらいの職人は、さすがに無駄のない動きで、十分ほどで鼻緒を取り付けてしまった。二種類のポンチ、目打ち、糸を穴に通すマドラーみたいな道具、ラジオペンチ、金属の当て板、コの字の釘を指す特殊工具、特製のヤットコと金槌を使う。ポンチで台の表面に目検討で穴をあけ、目打ちを底まで通す。鼻緒の内部の綿を先端だけ掻き出して細くしたり、しごいて形をきめる。台の底は革製で、二か所がコの字に切れて蓋となり、目打ちはその穴まで通っている。なかに針金が横に通っていて、鼻緒の芯になる紐を括りつける。余分を切って、あまりを穴に閉まって蓋を締め、コの字の釘を刺し、金槌で留目を打つ。

あとで嫁に聞くと、職人の右の親指は先端部がなかったという。私は作業をずっと見ていたが、まったく気がつかないほど、なんの支障もないようだった。

ああいう人は、営業トークも説得力がある。いい買い物だった、と思っていいだろう。

何回も履かないものだろうけど。