「描く人」安彦良和回顧展を見に行ってきた。
年に一枚ほどしかかかない素人がなにか言えることでもないけど、いったいなぜあんなにも正確で細かい線が鉛筆で引けるんだろう。しかも一発で。そのうえ一本の線の中に強弱がついている。なぜあの固い鉛筆で太い細いがだせるのか。そしてその始点と終点が予定された位置にで決まり、閉じた面積がだせるのか。これが毎日毎日、ま~いにち絵を何十枚も絵を描いている成果だろうか。時代が経過するにしたがって、増えていく線の量。最盛期ともいえる映画「ヴィナス戦記」の修正原画の精密さはどうだ。それはやわらかい筆で描くマンガになってより一層精密になり、しかも勢いを増していき、老眼の目にはハズキルーぺがないと細部まで判別しきれない。さらに小学生時代のノートを見ると、学研の科学と学習もそこのけの正確なマンガ絵と書き文字。高校時代にノートに描いたペンによる長編マンガは、ホワイトの修正が驚くほど少なく、それは制作時間の削減につながるのが実感できる。私は〇と棒線で描く下書きがないとうまく書けないが、安彦にはほぼそれが必要ないので、それも描く時間が減る要因だ。商業アニメーションという過酷な条件で、描く効率をあげていくうえで絶好のアドバンテージだっただろう。失敗がないから早く終わる。
何度も何度も同じような線を引いて、ようやく目的の位置に引けた線で絵を描いている人間にはできないことだ。この早さがあるから、正確な位置に目的の線を引ける技があるから、六十年も絵を描けるのだろう。たいていの人は、老年になると絵がヘタになる。安彦はちがう。うまいままなのだ。
開館時間の十時すぎに入ったのだが、知らん間に昼をまわってて、まだ「巨神ゴーグ」のころで、しかたないからそのまま見てたら四時をまわっていた。その間、昼飯はもちろん水分補給もできないし便所にも行けない。それでも十分に観察はできなかった。
ぜひもう一度見に行きたい。見に行く人は、できるだけ腹ごしらえして、用便をすませてから見に行ってください。それから、写真は撮れません。